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2011年03月02日

看護師さんの語る心のケア~クライストチャーチでの取材

危機介入

彼が受傷した交通事故は、友人達と遊びに行った帰りのことだった。その事故に遭った中で、何人かは助かり、そして何人かは亡くなった。看護学分野ではこういった予期し得ない出来事によって身体的、心理社会的に安定した状態を脅かされることを状況的な「危機」と呼んでいて、この「危機」に適切に介入することが「危機」の受容(その後の回復)に大きな影響を及ぼすとされている。「危機」の受容段階に関してはいくつかのモデルが提唱されており、キュブラー・ロスなんかは医療には関係ない人達の間でもよく知られているのではないかと思う。脊髄損傷に関してはフィンクの危機モデルが活用されることが多い。彼の場合も事故直後からこのフィンクの危機モデルに基づいた対応を前院ではしていたのだが、あるとき面会に訪れた事故とは無関係な知人が励ますつもりか「死んじゃった○○くん達の分も頑張って生きようね」と不用意に伝えてしまったらしい(サマリーに書かれていた)。一足飛びに機能障害を受容し、次の人生のプランを積極的に実行しているかのように見えた彼の心の中は、何ヶ月もずっと事故直後の「衝撃」期のままで抑えられていて、今やっと次の「防御的退行」に入ったのか、とこの先彼の進む過程の長さを思い、最初の段階でつまづいたことの大きさを実感した。


フジ大村「足切断されてあなたもうスポーツ出来ないけど、どんな気持ち?」被災者少年に無神経インタヴュー

日本のマスコミ人はとりあえず「被害者の心のケアを」で締めくくるが、実際にその「心のケア」というものが何に基づきどう為されているものなのか全く知らないし知るつもりもないのだというのがよくわかる。それはマスコミに限らず、一般の人々も我々のする「心のケア」なんてとにかくちやほや優しく「カワイソーネーガンバローネー」と言うことしか求めていないのもわかっている。しかし看護とはそういうものではない。現地クライストチャーチの病院でもこうした危機理論に基づいた対応が為されていただろうに、このインタビューが彼らの努力をすべて無駄にしてしまいかねない。わたしはそれが同じ看護師として本当に悔しく思う。

しかしこういった悪趣味な「ショー」を求めている人達も、一定数どこかに存在しているのもまた事実なのだろう、気分の悪い話だが。危機介入など知らない、自分は報道で言論のプロなのだから、というのなら当然「因果応報」という言葉の意味もよくわかっていると思う。どこにどれだけいるかわからない悪趣味な「ショー」を見たがっている誰かは、この男が同じような危機に陥っても同情も共感もせずにまた同じような悪趣味なショーにされることを期待するだけだというのに、そんな人々の期待のために後で取り返しのつかない何かを失ってしまったことにこの男は気づいているのだろうか?まあそれがわかるようならそもそも日本でマスコミなんかやっていないだろうとは思うけどね。

うちの相方が先日見ていたBBCの番組で、何か事件だか事故だかの被害者にインタビューしている番組があったのだが、その中でインタビュアーが「わたしの質問がもし不快であるなら、すぐにこのインタビューをやめます」と念を押しながら質問をしていたのが印象的だったと言っていた。さすがにタブロイド紙ですら「容疑者」の段階では敬称をつけて報道する国なだけあるなとは思ったのだが、わたしもアルゼンチンのTV番組である事件の犯人(とされている人物)を「セニョール」と呼び「回答を誘導したり名誉を傷つけるおそれがあるなど、質問が不適切であると思われたらすぐ言ってください、エントレビスタ(インタビュー)はそこで終わらせます」と、聞くアナウンサーを見たことがある。多くの日本人が発展途上国の詰め合わせだと思っているようなラテンアメリカの国の報道ですら、その程度の良識は弁えている。


ブラックバファロー選手が長期欠場から復帰し、タイガースマスクとのマスカラ戦の後に鬱をカミングアウトした時、色んな媒体で特集が組まれまた色んな話を目にしました。

バファローを訪ねてタイガースが言った一言、これでバファローは救われた。
でも、人によってはその一言が更に追い込んでしまう結果となったかも知れないと。

このことで、いかに心のケアというのが難しいものかというのを垣間見たような気がします。



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Posted by つくちゃん at 09:56│Comments(2)徒然
この記事へのコメント
マスゴミは、ほんとイヤですね
Posted by 世田谷の看護師 at 2011年03月02日 14:09
悲しいですね・・・。

日本人として。
Posted by つくちゃんつくちゃん at 2011年03月02日 21:16
 
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